Dビームで機械的なボコーダー・ボーカルに
英語のニュアンスをプラスさせる
─『Discoveries』に収録されている「Dancetek」のボーカルは、ソフトウェアでボーカルを加工して作ったものかと思っていたのですが、これもV-Synth GTのボーカル・デザイナーで作ったそうですね。
F:そうなんです。「Dancetek」のボコーダー・サウンドのポイントは、ハイをめちゃくちゃ上げていることです。これで、歯擦音が思い切りクローズアップされるようにしているんです。Patch Pro Edit画面で歯擦音をスルーさせるように設定したうえで、さらにEQでハイを思い切り上げています。シンセを合成する場合も、普通のシンセ波形ではなくて、PCM波形として搭載されている「フィメイル」などをぶつけるようにしています。そうすると、サイン波に近いボコーダー・サウンドが鳴ってくれるんです。これがすごく面白くって。まるで、ソフトウェアで機械的にピッチをいじったかのような、独特のボーカルが作れるんです。
─ 一方の「Vitalogy」では、典型的なボコーダー・サウンドが使われていますね。
F:「Vitalogy」は、ボコーダーを一番使う曲ですね。ライブでは、手弾きの時もありますし、MIDIでトリガー用のデータを送りながら歌ったりもしています。でも、トリガーのデータはメロディではないんです。CやGといったコードを送ることで、常時ノート・オン状態を作り出して、Dビームでピッチをコントロールしているんです。パフォーマンス的にも「この左手でボーカルのニュアンスをコントロールしているんだ」っということを、観客に見せるようにしているんです。
─ そのパフォーマンスは、インパクトがありますね。
私の中で神を知っている方法
F:そうなんですよ。でも、ただパフォーマンス面のみでDビームを使っているわけではないんです。例えば、この曲の冒頭に「メアリーメアリー」という歌詞があるんですが、これを普通に鍵盤で弾くと、どうしても平坦なボーカルになっちゃうんですね。でも、Dビームでピッチをコントロールすることで、英語的な細かいニュアンスが表現できるんです。これは、Dビームならではの効果ですよね。他社のボコーダーではできないことです。
─ なるほど。機械的なメロディになりがちなボコーダーに、Dビームで言葉のニュアンスをプラスしているのですね。
F:そうです。V-Synth GTのDビームはツインDビームになっていて、初期設定では、手を近づけることでピッチを上げたり下げたりできるようになっているんです。でも、僕は設定を変えて、両方のDビームともに手を近づけるとピッチが上がるようにしています。そうすると、トップ・ピッチを鳴らす手の位置がステージ上でも分かりやすいんですよ。そうすると、トップ・ピッチもDビームで簡単に出せますし、アクション的にも、言葉のイントネーションと合いやすいんです。また、ピッチ・ベンドで操作する場合も、振れ幅が±2程度(1=半音)だとピッチが上がりきらないので、±4とか±6くらいに設定して、思い切り上げ下げできるようにしています。ですから、アルバムの「Vitalogy」のボーカルは、あれでも結構、大人しいほうなんですよ。ライブでは、も� ��と激しくピッチを変えているんです。
COSMで歪ませて歯擦音をクローズアップすることで
ボコーダーのアタックを強調させている
─ ボコーダー・サウンドを作る際に、重要視しているポイントはありますか?
アウト愛と痛み
F:ボコーダーって、どうしてもアタック感、つまり声の立ち上がりが遅くなってしまいがちなんですよ。ですから僕は、V-Synth GTのCOSM機能を使って、コンプやディストーションをかけて歪ませることで、「さ」だとかの歯擦音をバッと前に出すようにしています。そうすることで、アタック感が出せるんですね。ボコーダーの音を歪ませてしまっても大丈夫な曲であれば、COSMで潰して歯擦音をクローズアップさせています。この「さしすせそ」が明瞭に聴こえさせられるかどうかが、ボコーダー、つまりV-Synth GTのボーカル・デザイナー機能と、ソフトウェアのピッチ補正機能との違いだと思っていますし、こういう音作りを1台で完結できる点が、V-Synth GTの強みですね。
─ そのほかに、ボコーダー・サウンドを使う際のポイントはありますか?
F:「Terminal Breakdown」という曲では、ライブで生のボーカルとボコーダー・サウンドをミックスさせて歌っています。メインは生なんですが、ボコーダーでローをかなり強めに出すようにしてます。
─ その理由は?
F:ボーカルとボコーダーをミックスする曲に関しては、ボコーダー・サウンドがモコモコと盛り上がり過ぎくらいまで出しておかないと、特にライブ会場のようなラージ・スピーカーでは、音が抜けてこないんです。他の音に負けてしまって。もちろん、ローが出過ぎであれば、本体やPAでもカットできるわけですから、基本的には出せる帯域は極力出すようにしています。いくらPAでEQしてもらっても、存在しない帯域は持ち上げようがありませんからね。
─ 今回、この「Terminal Breakdown」の設定で、「Ridham M」のボーカルをデモ演奏をしていただきましたが、そこでのポイントは?
ここで、iは、柔和と威厳に歌詞を見つけることができます
F:このデモ演奏でもローを強めに出して、あとは演奏しながらドライのボーカル(生の声)とのバランスを直感的に調整しました。そうすることで、ゴスペルっぽい雰囲気が出せたかな、と思っています。
─ それでは最後に、楽曲にシンセ・サウンドを取り入れる際のアドバイスをお願いします。
F:僕が一番意識しているポイントは、シンセ・サウンドの奥行き感なんです。日本のアーティストが鳴らすシンセ・サウンドって、奥行きがないものが大多数なんですよね。それは、最終的にマスタリングでリミッティング処理することで奥行き感が失われているということもあるんですが、それ以前の段階で、シンセ・サウンドそのものが、のっぺりとしてるんですよ。その大きな理由は、おそらくシンセのベロシティー値を一定のダイナミクスで打ち込んでいるからだと思うんです。反対に、最近の海外のエレクトロニカやアンビエント・ミュージックを作ってる人たちは、ベロシティー値を「5」から「127」くらいまでの幅で、思い切りダイナミクスを振り切らせているようで、それで洋楽特有のシンセ・サウンドの奥 行き感を作り出しているように感じます。だから、"リバーブを使わない奥行き感の演出"を、もっとシンセを使う人たちは考えたらいいんじゃないかな。日本人って、打ち込みでゴースト・ノートを入れるだとかグルーブ・クオンタイズを活用するだとか、細かいテクニックは得意なんですけど、こういった思い切った奥行き感の作り方とかは苦手のように感じます。そもそも、打ち込みのシンセ・フレーズ自体が固い物になりがちですから、操作するほうの人間はもっと頭を柔らかくして、自分が思ってる4割増くらいの振れ幅を付けたほうが、ダイナミクスが出せるような気がしますね。
Profile:藤戸じゅにあ
90年代に「ザ・ジェッジジョンソン」誕生。ボーカル、ギター、サンプリングを担当。メンバーチェンジを繰り返し、現在に至る。下北沢を中心にライブ活動を行い、その精神性やジャンルにとらわれない独自の音楽表現方法、ライブ・パフォーマンスが話題となる一方、自主制作による音源発表を繰り返し、そのクオリティの高さで下北沢界隈では知らない人はいないほどの存在となった。2004年に発表したアルバムは、カナダのカレッジチャートFMで2位にランク・インするなど、海外でも高い評価を得る。これまで、ライブハウス以外での露出がほとんど行われなかったが、2007年夏のSUMMER SONIC出演をきっかけに、表舞台へと姿を現した。2008年4月9日レーベル"UNITED TRAX"第一段アーティストとしてアルバム『Discoveries』を発表。ジャンル分け出来ない彼らの音楽は、某専門誌で"ワイアード・ロック"という新しい呼び名で紹介された。今では珍しくなった、ライブハウスからの叩き上げバンドとしてのライブ・パフォーマンスも見逃せない。
ザ・ジェッジジョンソンオフィシャルサイト:
Information
■CD
『Discoveries』
UNITED TRAX
KIZC-35 ¥3,000(DVD付)
『QUIT and REBOOT EP』<完全生産限定盤>
2007.8.8発売
※一部ショップ及びライブ会場限定で販売
■LIVE
2008.07.26(土)札幌・KRAPS HALL
2008.08.03(日)ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2008
2008.08.16(土)TREASURE05X with ZIP-FM
※詳細は、上記オフィシャルサイトをご覧ください。
0 件のコメント:
コメントを投稿