ブッシュプレーンで降り立った、そのギルビン・ストリップというポイントでラフトとカヌーを組み立てると、リーガンはランチを作ってくれた。
アンガスビーフのチーズバーガー。
なかなか豪華。
ごちそうさまでした。
食事が終わるとリーガンは、
「B24の所まで、ハイキングに行こう。」
と言い出した。
あの上空から見た、飛行機墜落現場の事だ。
イサオさんは、もちろんと目を輝かせている。
飛行機野郎の2人。
元戦闘機パイロットのイサオさんと、大学で戦争の歴史を勉強していたリーガン。
この2人が、あのB24に興味がない訳がない。
今日は最初の予定より40kmも川下に降りたし、スケジュール的にも余裕が出来た。
ブッシュパイロットのロンが、2時間半くらいの簡単なハイキングだと言ってたし、これは行くしかない。
「自分のこの目で、その歴史的なB24を見る事は、僕の人生に置いてとても重要な意味をなす事だ!」
熱く語るリーガン。
そうですか。じゃあ、行かない訳にはいかないね。
バックパックに必要な荷物を詰め込むと、5人は張り切って出発した。
ロンが言っていたように、川に沿って木の中を通る。
リーガンを先頭に、アラシ、ムサシ、イサオさん、私の順でどんどん歩く。
しかし30分もしないうちに、元来た道を戻る事になる5人。
道が途中で消えたのだ!
木が転がって水たまりだらけの、荒れた土地になっていた。
ロン。
話が違うじゃん!
道ないし。
全然簡単じゃないし。
きっとロンが言ってた情報って、20年以上も前の話だよ。
毒づく私達。
(後日談になるが、旅が終わってロンに聞いてみると、彼が最後にこの山に登ったのは、30年前の話だった。・・・やっぱり。)
しょうがなく、戻る事に。
出発点のキャビンの裏から、トレイルがあったはずだ。
ロンの話は信用出来ない。あそこの道を歩いてみよう。
こうして一同は、ロンが何度も言っていた「大変な道」を進む事になったのだった。
ここで、iは、いくつかの話し言葉を読み取ることができます
まずは、高い木が立っている道を進む。
かすかに道はあったが、それも途中で消え、道なき道をどんどん行く。
それを抜けると、薮に出た。
すごい数の蚊。
集ってくる蚊で真っ黒になりながら、歩く。
怖いよ。
熊より蚊が恐いよ。
蚊を振り払いながら、歩く歩く。
途中で、面白い物を発見した。
何だ、この植物は?
緑の中に一カ所だけ、こんな幻想的な風景が。
宮崎駿のアニメに出てきそうだな。
ナウシカで、こんなの見たような気がする。
鳥の赤ちゃん。
生まれたばかり。
他にも、熊のウンチもたくさん見た。
珍しい物を発見すると、リーガンが子供達に詳しく説明する。
いいね。生きた教育だね。
ツンドラ・スワンプ地帯に入った。
湿地帯だ。
歩きにくい。
スポンジの上を歩いているような、気持ち悪い感触。
よく見ないと、水が溜まっている所もたくさんある。
最初元気だった子供達だが、ムサシから
「すごく疲れた。」
「足が痛い。」
と文句が出るようになった。
すでに歩き始めてから2時間半。
ロンの話では、もう到着している時間だ。
(写真は、その頃のムサシ。集っているのは蚊。)
「いくら文句言っても、何もいい事は起きない。文句を言えば言う程、周りの人の気持ちを嫌にさせるだけだ。
やるしかないんだから。いい事は何でも、大変な思いをしなくちゃ到達出来ないよ。
前向きな気持ちと態度で、ゴールの事だけを考えて、さぁ行こう!」
リーガンが諭すが、ムサシはそれでも疲れたと口を尖らせる。
「じゃあね。」
リーガンが続ける。
「これから一言も文句を言わずに歩けたら、50パワーポイント!」
でた、パワーポイント。
これは夏休みから始まった制度で、100ポイント溜まると10ドルの好きな玩具が買えるシステムだ。
人道主義の理論は何ですか
「50ポイント!?」
途端に、ムサシの表情が変わった。
「分かった。もう文句は言わない。行こう!」
ムサシが明るい顔で立ち上がる。
すごい威力だな、パワーポイント。
実際に、この日から旅が終わるまで、ムサシが文句を言ったり弱音を吐いたりする事は、一切なかった。
ところで、地図も方位磁石も持っていないのに、どうして道が分かるのか。
リーガンの方向感覚はすごい。
前もスノーモービルで真っ白な雪の中で迷った時に、リーガンの勘だけで、元の道に戻れたんだ。
そんなリーガンを信じて、みんなリーガンの後をついていくだけだ。
どんどん、スワンプ地帯に入る。
もう靴はびしょびしょに濡れて、気持ち悪い。
ハイキングするなんて誰も思ってもいなかったから、みんな普通の運動靴。イサオさんなんて、釣り用の靴だ。
前を歩いてたリーガンが、
「ちょっと待って。」
と、1人で先の方を調べに行った。
そして帰ってきて、私達に言う。
「これから先、湿地帯が続き、もっと険しい道になるみたいだ。」
もっと険しい?
すでに十分険しいぞ。
「メルモは、ここから戻ってもいいよ。でも、僕は諦めない。絶対にあのB24の所まで歩いてこの目であの飛行機を見るから。」
リーガンの決心は固い。
私はちょっと嬉しかった。
諦めないと言った時のあの強い父親の姿を、息子達は将来、辛い壁にぶち当たった時に思い出してくれるかな。
リーガンが向かう所、家族はどこへでもついていかなくちゃ!
諦める訳にはいかない。
って、言うかね。
リーガンしか道知らないんだから。
こんな所で1人で戻れと言われても、戻れませんから!
それから、ガンガン歩く。
一つ心配な事は、持ってきた飲み水が少ない事。
こんなに遠くまで来ると思っていなかったので、十分な水を持ってきていない。
子供達のために、自分達が飲む水も我慢していた。
するとリーガンが、スワンプ地帯で地面から湧き出ている水を発見。
「これは自然の草がフィルターになってるから、そのままで飲めるはずだ。」
と、水筒に水を汲んだ。
ジムキャリーは、どのくらい映画を作っています
本当に?
フィルター通さなくて飲んでも、大丈夫なの??
それでものどの渇きには代えられず、恐る恐る口をつけてみた。
「ええい、これでお腹痛くなっても、いいや!」
ごく、ごく、ごく。
美味しい!
冷たくて、すごーく美味しい。
こんな美味しい水は、飲んだ事がない。
なまら、美味い!!
水パワーで、元気が沸いてきた!
またまた歩き始める一行。
岩の道を登る子供達をヒヤヒヤしながら見守る。
途中でムサシが目に涙をいっぱい溜めながら、
「文句言うんじゃないよ。文句じゃないんだけど。」
と私の所に来た。
「文句じゃないけど、痛いの。足がすごく痛いんだ。」
靴を脱がしてみると、ムサシの足にはマメがいっぱい。
これは、痛いはずだ!
イサオさんが持ってきたテーピングで治療してくれた。
足が治ると、また元気を出し、歩くムサシ。
「チョコレート食べる?」
イサオさんが聞くと、
「要らない。飛行機まで着いてから、食べた方が美味しいから。」
強くなっていくムサシの姿を見て、なんか、胸がいっぱいになる。
子供は、こうやって成長していく物なのかな。
歩いて、歩いて、歩いて。
そしてなんと、歩き始めて5時間。
ついに飛行機まで到達!
そこには何とも、すごい物が落ちていた。
これが、60年も前に落ちた飛行機。
そのまま、ここに残っているなんて。
言葉に出来ない衝撃だ。
その場で1時間程、写真を撮った。
しばらくボーっとその場に座り、帰り道の事を考える。
また来た道を、戻るのか・・・。
ちょっと、気が遠くなりそうだ。
日が暗くならないのは、とても助かる。
こんな所で周りが暗くなったら、怖いし帰れない。
白夜でよかった!
その時ムサシが、
「いい考えがある!」
と目を輝かした。
「ねー、イサオ。この飛行機修理してよ。」
「へ?」
「飛んで帰れば、いいんだよ!」
ムサシくん、それは何でも無理でしょう。
いくらイサオさんでも、出来ないって。
結局帰りは3時間半かかった。
夜中の11時40分に、やっとキャンプ地まで戻れたのであった。
大変だと言うけど5歳や8歳の子供でも行けたんだから、実際はたいした事ないんじゃないかと思う人もいるだろう。
でもね、本当に大人の私でも、すごくキツいハイキングだった。
普通の子供では無理だ。
きっと、このB24までハイキングした最年少記録じゃないか。
我が子ながら、すごい子達だと思う。
スーパー5歳児とスーパー8歳児だよ。
山を10年やっているイサオさんでも、
「こんな事をいつもやってるのか。すごい家族だ。」
と驚愕したぐらい。
かなり疲れた。
ずいぶん、やられたよ。
まだ川にも出ていないというのに。
冒険は、まだ、始まったばかり。
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